♪かなり前に作ったペーパーに載せたSSをたまーに再録しています 


再録SS






JIKO; } ?> ( 2012年1月インテのペーパーに書いた超短いSS )


よいざましなペーパー
2012.1.8


END





JIKO; } ?> ( 2013年3月大宴海5(ワンピオンリー)のペーパーに書いたSS。
「できてないゾロサンSSペーパー」が標題だったけど、
「できてない」は語弊があったかも。 )

『君を見てると 反則したくなっちゃう』
2013.3.31


 自分が油断していたことを、おそらく認めねばなるまい。
 ゾロはその時、久方ぶりにサニー号のダイニングでまともに摂る朝食に、すっかり気を取られていた。半分燃えていて半分吹雪いていたおかしな島を全速力で後にしてから一晩、追っ手を心配して夜を明かした連中もいるようだがゾロの安眠を妨げるような敵の気配は現れもせず、予定通りに皆で朝刊を確かめたあとである。
 なにしろ穏やかな航路などというものを選び取りさえしないこの船で、作戦会議を兼ねるとはいえ全員が顔を揃えてゆっくり朝食を食べるというのもいったい何時ぶりなのか、思い出せないほどだ。再結集してから初めてではないかと思うが、もしかしたら自分が寝過ごしているだけで他の面子にとってはそうでもないのかもしれないので断言はしないでおくべきか。
 クルーではない一時的な客が三人――あるいは二人と一匹?――ほど交ざっているが、コックの出す朝食に不満はなさそうで、それぞれの好みに合わせた皿を次々と空にしていっている。
 自分に供されたボリューム多めのカツサンドにかじりつきながら、ゾロは向かいに座った客の一人が握り飯を頬張るのを眺めた。
 皆で朝刊を覗き込んでいた時にはすでに朝食の準備は整っていたらしく、全員が食卓に揃う直前にコックは一人分だけ大急ぎで握り飯を作っていた。パンが嫌いだという七武海の男の分のサンドウィッチは当然のようにルフィの皿に追加され、代わりに握り飯の乗った皿が男の前に置かれることになる。
 飯櫃を開けるとき、コックが自分のほうへちらりと視線を投げたのが、ゾロにはもちろん分かった。口に出して言うわけもないが、――お前もおにぎりがいいなら作ってやるぜ? あくまでついで、だけどな!――というメッセージが籠もっていることに気づかないゾロではない。
 だがその問いかけにゾロは、軽く首を横に振って応えた。パンよりも米の飯が好みなのはゾロも同じだが、毎日あれやこれやと工夫を凝らして飽きのこないメニューの食事を用意するコックに、わざわざすでに整っている献立と違うものを作らせる必要もあるまい、と思う。
 お前の作る朝飯なら、パンだろうが米だろうが美味いに決まってるからな。―――というメッセージを籠めて返した無言の視線に、おそらく意味を正確に読み取ったコックが慌てたようにくるりとこちらに背を向けた。
 誰も気づかなかったに違いないそんなやり取りに満足して、ゾロは自分の皿に盛られた数種類のサンドウィッチを黙々と平らげたのだった。
 天気の良い朝、睡眠は足りて腹はくち、作戦会議はひと段落ついて各々のするべきことは定まり、間違いなく大きな騒動が起きるはずの島への上陸は近い。
 サーブされた食後のコーヒーに気分が緩むのは、至極無理からぬことではあっただろう。
「…さて、大事な話が終ったところで、ちょっと報告したいことがあります」
 だからクルー全員の前でコックがそう切り出した時も、ゾロはぼんやりと聞き流していたのである。
「なあに、サンジくん。おやつのメニューの発表?」
「いやいや、そんな重要なことでもないよ」
 でもまあ、できれば全員に聞いといて欲しかったから。そう続けて、コックは居ずまいを正した。

「―――おれと、そこのマリモは、今日から恋人同士になったんで。以後、そのつもりでよろしく」

 その台詞の後に食卓に落ちた沈黙が何十秒続いたか、正確に知っているのは何故か黙って壁のハト時計を眺めていた部外者の外科医だけだっただろう。
 永遠に続くかと思われた沈黙を破ったのは、やはり船長だった。
「なんだそーなのか! すげーなサンジ!」
「別に凄いことでもねぇが、まあありがとよ、船長」
 何が凄いのかさっぱり分からないがなんとなくまとまったように聞こえてしまうルフィの言葉に、凍りついたように固まっていた仲間たちも呆然としたままの顔をゆっくりと動かして、一斉にゾロに視線を向けた。
「………」
「………」
「……」
「…………」
「……ていうか」
「なんであんたが一番驚いた顔してんのよ、ゾロ?」

 一番驚いたからに決まっている。――と、最後まで固まったままのゾロが腹の中で答えても、彼らに伝わるはずもなかったのである。






 ―――そんなお話ならおやつの献立よりはずっと大事なことだから、二人できちんと話し合ってから改めて発表した方がいいと思うわ。
 さすがに大人な意見を述べてその場を収めたロビンの言いつけに従って、ゾロはコックと二人でダイニングに残された。―――言いつけに従ったのはコックの方であって、ゾロは単に呆然としている間に一人だけ取り残されたというほうが近いだろうか。気が付けば食卓についているのは自分だけになっていて、コックは大量の皿やカップをキッチンへと運んでいるところだったのだ。
 正直、何を話し合えというのか。完全に不意打ちだったコックの宣言に驚かされたままのゾロには、それを詰ればいいのか笑えばいいのかすら分からない。
 いや、まずは真意を問い質すべきなのか。
「なんでいきなり今日なんだ」
「ん?」
 鼻歌でも歌いそうな表情で食器を水につけていたコックが、くわえ煙草を揺らして顔を上げた。火はまだついていない。食器の始末が終わったら、ゆっくりと一服するつもりなのだろう。
「今日から、ってのは何だ。まだ早いんじゃねェか」
「え、そうか? もういいだろ、恋人同士で」
 ゾロにはむず痒くて口にもできないその言葉をあっさりとまた言ったコックは、むしろゾロの様子に不思議そうな顔をして見せた。
 もういいだろ、と言われても、まだ自分たちの間には、何があるわけでもない。突然そんな風に宣言されれば、困惑するのも当然と思うのだが。
 二年間の別離を経て、確かにゾロとサンジの関係性と距離感は、かなり変わった。
 二年前でも、それなりに分かり合っている部分はあったと思う。戦闘中でもそれ以外でも、ふとした瞬間に考えが通じ合ったり、お互いの意思が読み取れたりすることは多かった。だがそれはいつもほんの一瞬のことで、すぐに途切れて見失ってしまうような果敢ない感覚に過ぎなかった。
 そしてもちろん、お互いのことはただの仲間としてしか認識していなかった―――はずだった。
 だからシャボンディ諸島で再会した時には、お互いに驚愕することになったのだ。
 お互いを唯一無二の相手として思っていること、しかもそれがまるで目に見えて耳に聞こえるかのように明瞭に伝わり合っていることに。
 それが、二人とも身につけた覇気という能力のせいなのか、それとも別の理由があるのかは分からない。見聞色を発動してもコック以外の人間の考えまで読めるわけではないから、覇気のおかげだけでもないことは確かだが、二年前にはこれほどまでお互いの意識が伝わり合うことはなかったことを考えれば、この能力も全く無関係ではないのかもしれない。
 言葉にして告白しあうことさえ不要なほどだった。その時から確かにゾロはコックのことを、相思相愛の相手、と認識している。―――当然、コックの方も同様だろう。
 だが、いまだに二人の間には何もないのである。
「こ、…恋人、ってのは、もうちっと後の話だろう」
「お? 意外と順序にこだわる派かよ、クソマリモ?」
 面白そうに聞き返してくるが、コックの方こそそういうことにはこだわりそうに思えていたのに意外なのはこちらのほうだと言いたい。
 シャボンディ諸島からいくつかの島を越えてくる中でお互い憎からず思っていることは十分に分かったから、そろそろ次の段階に進んでも良いかとゾロも考えてはいた。すでに分かり切ったことではあってもきちんと言葉にしてお互いの感情を確認し合い、その次には相互理解を深めるための交際期間。これもとっくに双方の人間性はこれ以上なく理解し合っているつもりだが、省略して良いものではない。船上の仲間としてではなく交際相手としてお互いを見ることで、今までとは違った発見がないとは言い切れないからだ。
 交際期間を十分に過ごしたら、正式に将来を誓い合って、それから肉体交渉である。相手は嫁入りをする予定もないれっきとした男であるが、だからとて軽い気持ちで疵モノにしてよいわけもない。
 幸いにも自分たちは二人揃って同じ船長に行先を預けた同行の同士だ。長い時間をかけて、口幅ったい言い方ではあるが『愛を育んで』いく、その覚悟はあるつもりだった。
「―――お前はそれでいいのか」
 同じ覚悟と期待がコックの方にもあるものと思い込んでいたのだが、違ったのだろうか。
「…いや、うん。お前がそういうとこ、わりと古風なアタマだってことは分かってたんだよ」
 少し困ったような表情で、コックが視線を逸らす。
「でもみんなの前で言っちまえば、お前も引っ込みつかなくなるかな、って」
 ゾロにしてみればゆっくり時間をかけていくつもりのことでも、コックにとっては煮え切らない態度に思われていたのかもしれないということに、ゾロは初めて気付いた。
 思いあって理解し合っていると思い込んでいても、実際にはこんなすれ違いがある。通じ合っていると確信があっても、やはり言葉にして話し合わなければ食い違うばかりなのかもしれない。考古学者の意見は、さすがの年の功だ。
「…はじめから引っ込みなんかつくかよ」
 だが、自分の思いがそんなふうに外堀から埋めるような手を使わなければ固まらないような曖昧なものだと思われることは、心外ではある。
 あんな宣言などされる前から、とっくに遠い未来まで見据えた確実な思いなのだと、これからじっくり分からせてやる必要があるだろう。
 その決意が伝わったのか、逸らしていた目線をゾロへと戻したコックが肩を竦めて苦笑した。
「昼飯のときにみんなに謝らねぇとな。嘘ではないけど、びっくりさせてごめんって」
「おれにも謝れ、今」
 相当驚いたぞ、おれも。
 ゾロが憮然として言うと、はたはたと何度か瞬きをした後、カウンター越しにコックが身を乗り出してきて、小さく言う。
「ゴメンな、驚かせて。―――引いた?」
「おれは一歩も退かねェ」
 どん、と大きな書き文字を背負ったゾロの返答に、サンジは晴やかに破顔した。






「で、話は戻るが」
「ん?」
「なんで今日からなんだ。何かあったか?」
 シャボンディで再会した時から相思相愛であることはお互い伝わり合っていたのだから、見方によってはあの時からすでに恋人同士だったとも言えるし、逆にこれから関係が深まってから恋人同士になったと報告するのでもいいはずだ。
 なぜ特に今日を選んで「今日から恋人同士」と宣言するに至ったのか、ゾロには見当もつかない。何か記念日――たとえば誕生日に入籍したがるような類の――だったかとも思ったが、いくら考えても今日は何の変哲もない今日でしかなかった。
「うんまあ、確かにあった」
「何がだよ」
 にぃ、と楽しげに笑ったコックが、食卓に乗せられたままだった朝刊を指差した。
「広告欄、見てみろよ」
「…広告?」
 コックの笑顔に少々嫌な予感を覚えつつ、ゾロは新聞を開いた。普段新聞を読んだりはしないが、広告欄がどんなものかくらいは分かる。雑誌だの通販だのの宣伝に紛れて、尋ね人だの、暗号めいた伝言が小さく載せられている場所だ。
 ページの隅、見覚えのあるコック帽のマークが目に入る。
 それはコックがメリー号に乗り込んでくるとき、持ち込んだ新品の皿やグラスに、描かれていたマークによく似ていた。
「シャボンディから電報打ってたんだよな、おれ」
「…なんて?」
「アホ剣士とくっついちゃうことになりそうだぜ、的な?」
「……」
 文字だけでなく店のマークも載せているあたり、向こうも手馴れている。今回だけでなく、今までもこの方法で何度かやり取りしてきたのかもしれない。
 コックの実家ともいえるレストランからの伝言なのは、間違いなかった。

『Sへ S月道場から鰹節等九品受領 レストラン[B]』

「お前、故郷の地名しか覚えてないんだもんなぁ。でもバラティエの情報網は半端じゃねぇからな、ちゃんと探し当てて連絡取ってくれたみたいだ」
「………」
「カツオブシ貰ったってのは意味分かんねぇけど、悪い返事があったって感じじゃないし」
 だから、今日言っちゃっていいかなーって思って。悪びれることのないコックの言葉に、ああ確かに悪い返事じゃない、というかこれより良い返事ってあり得ねぇだろ、と思う。

(―――つーか先生、こいつの実家に結納品送ったのかよ…!)


 昼食の席ではコックからではなく自分から、恋人同士ではなく婚約者同士として仲間全員に報告をしなければならないな、と肚を括った古風な剣士なのであった。



終わっとく。





JIKO; } ?> ( 2013年1月インテのペーパーに書いた超短いSS。
正しくは「ちょこっと落描きとちょこっとSSなペーパー」で、
落描きはFILM ZだったけどSSは全然映画と関係なかった )

イッツノットハートウォーミング
2013.1.7


 海賊狩りのロロノア・ゾロは、驚くことに、実は寒がりらしい。

 いや、信じられないのも無理はない。かく言うおれも、ついこの間まで知りもしなかったのだ。―――別に、藻類が暑がりか寒がりかなんて、興味もねぇけどな?
 それにしたってあの、以前は年じゅう半袖丸首シャツ、今だってずるずるの着物(?)の前袷も常に開けっぱの薄着男が、寒がりだなんて誰も思いもしねぇだろ。―――ったく、誰に見せつけたいんだよそのムキムキの胸筋を。無防備な胸元からちらりと見えて嬉しいのはナミさんやロビンちゃんの谷間だけであって、テメェが胸元開けたところで誰も喜びゃしねェっての。
 だいたいこれまで通ってきた冬島やら冬気候やらの地帯でもコートすら滅多に着込まずにシントーメッキョクとか謎の呪文唱えては半裸で乾いたタオルで身体こすってたくせに、実は寒がりとか笑えるのを通り越して意味不明だろ。なんでせっかくいつでも入れる風呂があるのに、わざわざ外で身体洗う必要があるんだよ。しかもタオル濡らしてないんじゃ洗えてもいねぇし。

 だがしかし、この状況は他に説明のしようがない。
 こいつが寒がりでないなら、これは一体なんだというのか。

「―――って言うかよォ…おれより適任いるだろコレ、明らかに…」
「あ?」

 サニーは三日ほど前から、恐ろしく寒い海を航行中だ。
 冬真っ最中の冬島だの、深海の極寒層だの、寒いところもそれなりに行ったつもりのおれたちだけど、ここの寒さは経験したことのない種類の冷え込みようだった。
 しんしんと冷える、とはこのことかと改めて実感する。なにしろ海はどこまでも氷混じり、でかい流氷が浮いているわけではないから船体に危険はなくて航海そのものは楽だが、代わりに海面の半分以上はみぞれ状に凍っているのだ。まるで溶けかけたかき氷かフローズンダイキリのうえに浮かんでいるような格好ですでに三日目、何もかも芯から冷え切った船の上では火のそばにいるかクルー同士で固まっているかしか暖をとる術がない。
 骨とロボを除外して、船長鼻タヌキの三匹は常にダンゴ状態でダイニングに転がっている。基本的に火を一番使うのがキッチンだからだが、あまりに寒すぎて盗み食いをする気力も沸かないらしいのは幸いだ。
 麗しのレディお二人はウソップ謹製の『着る毛布EX』――寝袋みたいな筒状の毛布に控えめパワーのヒートダイアルを仕込んでいるらしい。暖かいのはいいけど気持ち良すぎて一歩も動きたくなくなるのが難点だわ、と好評だ――に全身を潜り込ませて、やはりダイニングでストーブにあたっている。
 ダイニングに見当たらなかったのは一人だけ。燃料の無駄遣いは許されないからダイニングとキッチン以外に熱源はない船の上、一体どこで凍ってやがるのかと探しに出てみれば、こいつは今日もいつもの巣でいつも通りの平常運転だった。つまりはジムで酒をかっ食らってやがったのだ。
 酒を呑めば確かに火照って温まったような気にはなるかもしれないが、結果的には水分を失って身体を冷やす。いくら頑健このうえないアホ剣士でもこの海域で深酒は危険だと、ポットに入れてきた生姜湯を押し付けたら、受け取るついでみたいに腕を掴んで引き倒された。
 これで三回目。昨日と、一昨日。
 文句を言う暇もなくゾロの足元にあった毛布にくるんと包まれ、両脚をくいっと折りたたまれて毛布の中に押し込まれ、ついで両腕も揃えてやっぱり毛布の中に納められて、全身をひょいひょいと文字通り丸め込まれたおれは、ころんとゾロの膝に収納されてしまう。
 三回目ともなると、またかよ、と騒ぐ気も失せるというものだ。

「よっぽど寒かったんだなァ…だから下にいりゃいいのによ」
「何言ってんだ?」

 離せと抵抗する気力も削がれるのは、この体勢で抱え込まれてしまうと暖かすぎて抜け出すのが困難なせいもある。おれの体温で暖を取っているのはゾロのほうのはずなのに、ゾロの身体は妙にほかほかなのだ。

「てめぇ、今日も冷えてんなぁ」
「じゃあ離せよ…抱えてても意味ないだろ?」
「ないわけねェだろ」

 自慢にもならないがおれの手足はもともといつもひんやりしているのが常で、湯たんぽ代わりにするには全く適していないと思う。
 ダイニングに下りてルヒウソッチョだんごに混ざれば大歓迎されるだろうし、ゾロ本人もきっとその方が暖まるはずなのだが、今こうしてここでおれを抱え込んでいるのは、よほどこの冷え込みに切羽詰まっているのだろうか。
 ―――まあ考えてみれば、極寒の地の生き物ってのはだいたい脂肪をたっぷり貯えているもんだ。その点、全身を筋肉で覆って最低限以下の脂肪しかつけていないこの筋肉マリモには、この寒さは堪えてしかるべきなのかもしれない。
 ぬるま湯でも、お湯はお湯だ。ほかほかではないおれでも、湯たんぽ代わりに無いよりはマシなのかもしれない。
 そんなふうに思うと、この腕の中から抜け出そうともがく気にもならなくなる。もうこれで三回目となるとキモいと言って暴れるのもいまさらだし、なによりぬくいし。
 こんな暑苦しいツラをしているくせに、寒がりだなんて気の毒なヤツだ。さほどほかほかでもないおれを抱え込んで毛布をかぶって、生姜湯をちびちび飲んでるなんて。
 可哀そうで、ひとり放って出ていく気になんてなれない。

「…お前も飲めよコレ。熱くて美味ェぞ」
「ったりまえだろ、おれが作ったんだから…」
「あー、いいから飲め」
「んー」

 ほこほこの腕の中にいるのでもうそんなにひどく寒さを感じてもいないのだが、魔法瓶の中で湯気をたてる生姜湯は魅力的だ。
 レディたちにサーブしたジンジャーティーとは別に作った、生姜の搾り汁とちょっぴりの蜂蜜とスパイスだけの、シンプルな飲みもの。腹の底からじんわり暖まるはずのそれは、しかしお子ちゃま味覚の多い男共には敬遠されていて、ほとんどクソ剣士専用の配合になってしまっていたりするのだが、ひそかにおれ本人も気に入っている。
 湯呑みに注がれた生姜湯を受け取るために毛布から手を出そうとしたら、なぜかゾロが眉を顰めた。

「…なんだよ?」
「出すんじゃねェよ、手ェ冷えんだろーが」
「はァ?」

 意味が分からん。
 出そうとした手をつい止めて、むすっとした顔を見返す。かなり近すぎる距離だが、不思議と嫌悪感は覚えなかった。

「飲めっつったのはお前だろーが」
「おぉ、飲め。だけど手は出すんじゃねェよ、せっかくちっとはあったまってきたとこだろーが」
「……手ェ無しでどうやってソレ飲めっての、お前…」

 おれが言うと、マリモ剣士はおお、それもそうだな、と困ったような顔をした。いや、アホなの? 本気で気付かなかったの?

「でも手ェ出すと冷えるだろ」
「そりゃ冷えるけど、仕方ないだろ」
「仕方なくねぇよ」

 一体、こんな密着して何を言い争っているんだろう、と思わないでもないが、ゾロはどうにも真剣な顔つきでおれを毛布で包み直して、厳重におれの両手を毛布の下にしまいこんだ。
 おかしい。そういえばおれは全身を一枚の毛布でぐるぐる巻きにされていて、そのおれを抱え込んだゾロがもう一枚の毛布をかぶっているのだが、よく考えるとこれは、おれが二枚の毛布をかぶっていて、寒がりのゾロが一枚しかかぶっていないことになるのではないだろうか。
 いくら痩せ我慢が趣味のクソマリモでも、それはちょっとおかしくないか?

「お、そうか。こうすりゃいいな」

 首を捻って混乱中のおれにゾロが、口開けろ、と言う。
 反射的に開いた唇に、熱い湯呑みのふちがそっとあてられた。

「え、ちょ…」
「こぼすなよ?」

 ぴりっと熱くてほんのり甘い生姜湯は自分で作ったもののはずなのに、なにか知らないものを飲まされているような気がした。



 ゾロが寒がりどころか寒暖に鈍すぎて感覚中枢のどこかがおかしいんじゃないかと船医に疑われるレベルだと知ったのは、それからしばらく後のことだった。


END





JIKO; } ?> ( 2010年11月・ZSオンリーで出した12ページのペーパーSS。
ちょうどWJで2年後再会・幼児語プレイがあった翌週がオンリーで、
滾りっぷりがハンパなかった )

21歳sの再会を祝うペーパー
2010.11.3


【手みやげ】

 二年ぶりに上陸したマングローブの島には、仲間の顔はまだひとつも見当たらなかった。
 つまり、自分が一番乗りだ。
「どこで道草食ってやがんだアイツらは…まったく世話が焼ける」
 クルーの誰か一人でも耳にしたなら鼻で笑われるか憤慨されるか、とにかく同意は絶対に得られないであろう独り言を呟いて、13番GRのバーを後にする。
 メンバーが揃うまで酒でも飲んで待っているという手もあるだろうが、なにしろ店の名前が『ぼったくりBAR』では一人で落ち着いて飲めそうな気がまったくしない。年齢不詳のママは「お金なんて取らないわよ♥」と笑うが、どうもあのテの女のいうことを真に受けようとは思えなかった。何かの拍子に法外な代金をふんだくられようものなら、航海士に嬲り殺されるのは確実だ。
「にしても…暇だな」
 残り八人のクルーが全員揃うのに、何日掛かるだろうか。
 自分の飛ばされた先の島からも、ここまではかなりの距離があったように思う。
 自分の場合はなぜかお節介なゴースト女が水先案内をしてくれたので思ったよりは早く着いたのだが、他のヤツらは一人で道に迷ったりして長い時間がかかる可能性もあるだろう。
 もちろん、誰についても心配などはしていないのだが。
「とりあえず…メシでも食うか」
 繁華街―――といっても島の地理など把握してはいないゾロは、ひとまず人の気配の多そうな方角へと足を向けた。



「いんやぁ兄ちゃん、よく呑むなあ!!」
 街の居酒屋かバーにでも入るつもりが、なぜかそれらしい街に行き当たらず、海岸を歩いていたら漁港に出た。人の多い気配へ向かって近道を来たはずなのに、どんどん賑やかな気配が遠ざかっていくとは、不思議な島だ。
 そういえばこの二年間を過ごした島も、やはり不思議島だったな、とゾロは思い返す。今回の集合のためにシャボンディ諸島を目指して船を出したのに、何度外洋へ向かってもいつの間にか元の島へと戻ってしまうのだ。七回ほど船出しては戻り、を繰り返して、結局シャボンディ諸島へ向かって漕ぎ出せたのはようやく八度目のことだった。
 ―――まったくグランドラインってのァわけの分からん島だらけだぜ、やりづれェ。
 そうぼやく剣士はもちろん、これまで自分がいた島が本当に『偉大なる航路』の中にあるのかどうかも知らなければ、一人で船出しては戻ってくるのを七回も繰り返したゾロを見るに見かねたゴーストプリンセスが、本来なら放っておくつもりだったのに厭々ながら八度目になって仕方なくシャボンディまで同行してやったという事情も知らない。
 もっともゴーストプリンセスのほうにしてみても、モリアや元の仲間の居場所の手がかりとなる情報がシャボンディ諸島にあるかもしれないと大剣豪に吹き込まれなければ、ゾロに同行しようとは思わなかっただろう。その場合おそらくゾロは永遠にこの島には辿り着けなかった可能性が極めて高いのだが、当然彼はそんなことも気にしてはいなかった。
 とにかく見知らぬ漁港に行き着いたゾロは、適当に飯の食える店を探して入ったのだった。漁師町だけあって食堂も簡素で荒っぽく、しかし昼間から安くて強い酒がいくらでも出てくるのはありがたい。
 かれこれ一時間ほどもそうして酒を飲みつつ魚の煮込みなどをつついていたのだが、つい先ほどからカウンターを占拠して呑み始めた地元民らしい漁師の一団が、見ない顔の若造に興味を持ったようだった。
「うっめぇだろー、オレらの獲ってきたブリはよぉ?!」
「あー、まあな」
 こんな立地の食堂なら目の前の港で揚がったものに決まっていて、新鮮な魚は刺身もフライもなかなかの味ではあった。なかなか旨い、と思いつつも満足しきれはしないのは、二年も離れた船での食生活があったせいだとは、さすがにゾロにも自覚がある。
 普通のメシとしては、確かに旨いのだ。だが自分は、普通ではないメシに胃袋を掴まれてしまっている。
 それを認めるのは業腹な気がして、決して口にはしないが。
「しっかし兄ちゃん若ェのに結構な貫禄だな。どうしたその片目ァ、カジキの角にでもやられたか」
「いや、おれァ漁師じゃねぇし」
「なんだもったいねェ、そのガタイなら相当稼げるだろうによォ!」
 昼間っから宴会状態ですでに酔いの回っているらしいオヤジどもが、そうだそうだと囃す。
 確かにこんな昼日中から呑んだくれていても文句も言われないってのは悪くねェかもな、などと、仲間に聞かれたら「今とどう違うんだ」と突っ込まれそうなことを考えるが、調子に乗って次の船に乗ってみっか、と言い出した親父には慌てて首を振った。
「いやオッサンら遠洋じゃねぇのか。船出したら次戻んのはいつだよ」
「さぁなァー、三ヵ月後か半年後か」
「赤んぼだったガキがなぁ、帰ると生意気なクチきくようになっとんのよォ」
「それならまだええ、うちなんぞ娘にムコが来とったわ」
 だっはっは、と席が沸く。陽気なオッサンたちだ。
「なんだ兄ちゃん、オンナが心配か? 半年や一年で女ァいなくなったりしねぇぞォ」
「兄ちゃんほどのイイ男ならなァ、どんな女だってちゃぁーんと待っとるだろうよォ」
「…いや、そういう問題じゃねぇが」
 待ってねぇかもなぁ、と素で返しそうになって言い直す。なんでおれが遠洋に出るって話になってんだ。おれのガタイはそんなに漁業向きなのか。
 つーか、半年どころか二年経ってんだよな。半年や一年はちゃーんと待ってるとして、二年はどうなんだ。いや二年ってのは不可抗力だったわけだが。
 待ってるもなにも、約束も何もしていないわけだが、それはどうなんだ。
「心配いらんて兄ちゃん、ワシらのとっておきの方法を教えてやるで」
 まるで心中を読んだかのようなタイミングで、一番年嵩らしい親父が言った。
「ワシらはな、いっぺんの漁でいっちばん良い魚は、市場にゃ揚げねぇのよ」
「ヘェ?」
「一番の大物はなァ、女房への手土産よ。手ぶらで帰りゃあ愛想尽かされても文句は言えねェ、その代わり大物手土産にしてりゃどんだけ留守にしてたって女房ァにこにこして出迎えるってもんさぁ」
 なぁ?と見回す親父に、そんだそんだと盛り上がって店中から乾杯の声。そんな単純なもんかね、と思いつつ、ゾロの脳裏に一瞬浮かんだのは満面の笑みで自分の身長ほどもあるホンマグロを捌く料理人の姿だった。
 ―――いやいや、おれはアレを嫁にしたいわけじゃないが。有り得ないだろうアレが嫁って。
 しかしでかい魚を捌くときのアレの表情は悪くないと思う。何に興奮するのか頬がガキみたいに紅潮して、長庖丁の先を見詰める瞳はなぜか潤んで、口許が両端できゅっと上がる。挑みかかるような、それでいて楽しくてたまらないというような、ありていに言えばエロい。食材に欲情するわけもあるまいに、メシ作っててエロいってのはどうなんだ。アホすぎる。あんなアホが嫁とか、有り得なさすぎる。
 ついでにアレはメシ作ってるときだけでなく、食材を選んでいるときからエロい。滅多にないが船長が食える海王類を捕まえたときなど、ほとんどうっとりしたような目で獲物を見る。ついでにゴム船長のこともうっとり見たりする。アホすぎてどうしようもない。アレはゴム船長の嫁にでもなるつもりなのか。
「……オッサン、」
 手土産か。
 二年ぶりの再会が、あのアホのあんな顔というのも、まあ悪くねェ。だろう。
「多分あと何日かのことなんだが、おれはいま、暇なんだ」
 突如として鬼気迫る低音でぼそりと言った剣士に、それまでわいわいと盛り上がっていた食堂は、しんと静まった。
「お、おう……?」
「遠洋はムリだが、…釣りがしてぇ」
 近くで大物の上がる穴場があるか、教えてくんねぇか。
 言葉の内容にそぐわぬ迫力で迫る若造に、これは何かの暗喩で、自分たちは何か脅されているのではないか、と―――その場の全員が思ったとしても、不思議はあるまい。
「つ、……釣り、か……?」
「おう。釣りだ」
 たとえ本人が、自分が一本釣りした「手みやげ」を受け取って喜ぶ料理人のことしか考えていなかったとしても。





【てはいしょ】

 海の向こうに、楽園が見える―――。

 メリー時代の船長よろしく、サンジは船首にしがみついて水平線上にぽつりと姿を現した島影を見つめた。ぽこぽことした巨大な木のシルエットに、のんきに浮かんでは消える無数の七色の玉。間違いない、あれこそ二年前に訪れた巨大マングローブの島だ。
「……長かった…―――」
 あれこそが楽園。パライソだ。ニライカナイだ。デーヴァローカだ。
 …いや、違う。あれは常世だ。ごく普通の、ごくありふれた人々が住む、ごくまともな世界。そんなことは分かっている。
 だが、普通でもありふれてもまともでもなかった世界から帰還した、いや帰還の真っ最中であるサンジにとって、その常世は楽園以外のなにものでもなかった。
 ―――ああ、久しく見なかったまともな世界―――本物の女性のいる島―――
 滂沱の涙を流しながら抱きつくビークヘッドさえ、女神を模した美女象ではなくグロテスクな厚化粧マッチョだが、いまのサンジにはそれを嫌悪する余裕すらない。不気味ではあるが、自分をこの楽園まで無事に連れてきてくれた船だと思えば感謝の念が嫌悪を凌ぐ。

「しーまが見えたわよぉーーーーぅッ」

 見張り台から拡声器も使わずに甲板中に響いた野太い声も、素で聞こえなかったふりだ。地獄の島での二年間を越えて、いま乗り込んでいるのは地獄の船、いわば地獄の出張所だったが、それもあと数時間の辛抱だと思えば一抹の寂しさ――は覚えないが、耐えることくらいはでき――
「さーんじきゅん、あちしたちとのお別れが辛くて泣いちゃったのぉーう?」
「んなワケあるかァ!!!」
 嬉し涙に決まってんだろがオロすぞクラァ!
 振り返って叫ぶサンジに、「強がっちゃってェ」「ツンデレ?」とクルーが沸く。
 サンジをシャボンディ諸島へ送り届ける長い船旅に同行しているのは、カマバッカの「乙女」たちの中でも特に精鋭の屈強な猛者どもだ。この二年、地獄の苦行に耐えてきたサンジでも、少々迫力負けの感は否めない。
「大丈夫よサンジキュン、あちしたちサンジキュンのことゼッタイ忘れないわっ!」
「そうよそうよ、サンジきゅんのあーんなコトやそーんなコト…絶対に…どゅふふふふぶぶぶへへへへ…」
「忘れろ! つーかおれは忘れる! 忘れた!! いまこの場で全部忘れたいイイィィィィィ!!!」
 ハンカチの端を噛み締めたオカマや怪しい含み笑いのオカマに囲まれて、泣き崩れるサンジは自分も乙女な内股で甲板に座り込んでいることにはまったく気づいていなかった。



「待ち合わせの場所は決まってるのぉーぅ?」
 倉庫の在庫整理を兼ねて、その日の昼食は超豪華メニューになった。サンジがこの船で作る最後の料理でもあり、二年間の修行の成果の集大成でもある。屈強な「乙女」たちは揃いも揃って健啖で、尋常ではない量をしんみりしながら瞬く間に喰らい尽くした。
 デザートのケーキは一人一ホール。サニー号のキッチンに匹敵する巨大オーブンをもってしても、人数分を焼くには数回が必要で、順番待ちの最後の五人が指を咥えて(ついでに涎もだらだら流しつつ)サンジの手許を見つめている。
「いや、そんな余裕なかったしなぁ」
「それもそーよねィ」
「ま、心当たりはあるし、問題ねぇだろ」
 粗熱の取れたスポンジに手早くデコレーションを施しながら返事をしたサンジは、だみ声の嬌声を上げる最後の五人の前に完成したケーキを分配した。
 ほとんど一口でホールケーキを平らげた「彼女」たちが、ごちそうさまの代わりにサンジに投げキッスを投げる。飛んできた岩石のようなハートを見事な包丁捌きですべて打ち返して、サンジは「食ったらとっとと接岸準備行けよ」と笑った。
「ああん、サンジきゅん最後までツレないいぃぃぃん」
「こんなにかたくなに誰にも靡かないなんて…やっぱりお船にイイ人がいるのねェ? ね?」
「いなくてもなびかねェよ!!」
 もちろん船にはナミすわんとロビンちゅわんがいるけどォホホホホ! あーもうすぐ逢えるねなみすわんロビンちゅわん!!
「ああ、二番目と三番目ね」
「…は?」
 二番目と三番目?
 くるくると全身で回っていたのを止めてきょとんと首を傾げたサンジに、島の女王ほどではないがかなり顔面面積の大きい船長が、ずい、と寄る。
 それに思わず退いたサンジの尻ポケットから、丸められた紙の束をすばやく引き抜いた。
「ひょえわ?!」
 ついでに尻をひと撫でされて奇声を上げたサンジにカマわず、その場に残っていたオカマたちがなになになになに、と集まってくる。
「あら、手配書ねン?」
「サンジキュン、ホントに仲間想いよねェ♥」
「いつも寝る前にみんなの手配書一枚ずつ眺めてたわネェ……泣けたわァ……」
 ぎゃーーーー! なんで知ってんだ!! サンジの叫びをよそに、船長が手配書の束をくるくると広げる。
「あン、何度見てもイイ男♥」
 一枚目の凶悪な剣士の顔が見えた途端、サンジは床に撃沈した。

「いつでも広げて一番に見られるようにしてるなんて……サンジきゅんって本当にケナゲ♥」


ああ、違うんですナミさんロビンちゃん、決してお二人の顔を見るのが後回しでいいなんて意味じゃなく、そう、一番上にしていたら一枚ずつしかない手配書が傷むから…お二人のお顔に折り跡なんかついたら大変だから…そう、だから、だから一番折れたり破れたりしそうな一枚目はクソ剣士にしてあるんです…それだけなんです…決して他意は…決して…落ち込んだ時にまず見たいのがクソ剣士の不敵な写真だとかそんなことはなくて…いつもクソ剣士、ナミさん、ロビンちゃん、アホ船長、ウソップ、チョッパー、変態ロボ、エロ骸骨の順番に眺めたあとでまたクソ剣士を上に戻してしばらく見つめてたとかそんなこともなくて…本当なんですナミさんロビンちゃん…おれの心の支えはいつだってナミさんとロビンちゃんだったんです…本当です………


 キッチンの床にへたり込んでぶつぶつと呟くサンジを微笑ましく見守ってから、オカマたちは接岸準備のためにぞろぞろと甲板へ出て行ったのだった。

「心配要らないわサンジキュン、あんたの花嫁修業は十全にカンペキよ♥」
 そんなとどめの一言を残して。




【カタコト】

 二年経ってもこいつの脳ミソは筋肉のままだった。

 ―――まあ、どうしたって筋肉が脳みそに変わるわけはないんだから、当然っちゃ当然か。むしろ安堵しないでもない。こいつはダメさ加減までブレない安定感のあるヤツだ。
 漁港で「たまたま」合流してから、サンジは目を離すとどこへ行くか分からないダメ剣士を連れ回すことにした。ボンバッグがあるから買い出しに荷物持ちはいらないが、釣りがしたいといって海底へ一人だけ先に行ってしまいそうになるファンタジスタをみすみす一人にしては、次に合流できるのは何年後か。
 別に自分はそれでも構わないのだが、ナミをはじめとしたクルーたちに詰られるのはその場合おそらくゾロの行動ではなく、目を離した自分の失態のほうだろう。
 要するに、幼児のお守りだ。
 そう開き直れば、妙に釣りに固執するアホな剣士を連れて市場を巡ることくらいはなんでもない。
「おれは釣りが…」
「しつけェ」
 いつまで言ってんだ、と睨みつけると、ゾロは仏頂面のまま目を逸らした。左目は開かないようだが表情まで失われてはいないらしく、吊り上った眉が不満を訴えている。
 思えば合流してからこっち、ゾロは珍しいほどあからさまに機嫌が悪い。笑顔で再会を喜べとは言わないが――というかそれは想像しただけで気味が悪い――、二年ぶりに顔を合わせた仲間に対する態度としては最悪だ。
「つーか」
「あ?」
「お前、なんか拗ねてんの?」
「バッ…」
 バカ言うな、という言葉を飲み込んで、また視線を外す。いったんそう思うと、もう拗ねているようにしか見えない。
「なんでそんなに釣りがしてェのよ。意味分かんね」
「…暇だからだ」
「もう出航するんだぜ? あとルフィが着いたら全員揃うんだから。つぶすほどの暇なんかどこにあるよ」
「…ルフィがいつ来るかは分かんねェだろ」
「三日後かも知れねェしもう着いてるかも知れねェけど、あのアホ船長だぞ? のんびりまともに出航できるわきゃねェだろうが。もういつ出航になってもいいように万全で待機しとく段階なんだよ。ったく暇暇ヒマヒマって、テメェはあのヒマツブシのオッサンかっつーの」
 まくし立てるサンジに何か言い返そうとして結局口を挟めなかったゾロは、なぜかサンジの持ったボンバッグの中の、魚屋で仕入れた大量の魚箱を見上げながらぼそりと呟いた。
「……釣り」
「サニーに戻ったら好きなだけ釣りやがれッ!!」
 そんな暇があったら、だがな!
 意味不明なほどしつこいゾロにさすがに頭にきて、サンジは捨て台詞とともにそのままゾロを置いて行こうとして―――すぐに思い直して戻っては来たが、だからその時ゾロがもごもごと言った言葉は耳には入らなかった。
「―――それじゃ意味ねぇ」



 確かにサニー号に戻って釣りなどしている暇はなかった。
 巨大鳥に乗って迎えに来たチョッパーとともにルフィを伴って戻った船には、すでにクルー全員が揃っていて、あとし海底に向けて出航するのみ、という状況。
 あっという間に海中へ潜り、ナミの指示で帆の調整に走り回って、海上とは違う海流に乗る船の勢いと揺れに翻弄されながら船のすぐ傍を大型の魚や海獣、あるいは海王類が行きかうのを見るが、コーティングの外側まで釣り糸を伸ばしていいものかどうかも判断がつかない。さすがのゾロにも、コーティングの向こうへ斬檄を飛ばせば船もろとも大破するだろうとは想像がついた。
 そんなわけで、またもや釣りは断念だ。
 おかしい。時間は十日以上もあったのに、なぜ自分は結局手ぶらなのか。
「マジで意味分かんねぇ。この二年で釣りマニアにでもなったのか、お前。毎週『釣りロマン』でも観てたのか?」
 コーティングの向こう側を大物が過るたびに険しい目を向けるゾロの背に、呆れたような声が掛かった。
 気取られないようにしていたつもりだが、いまだに未練たらしく獲物の気配を追うゾロに気付くあたり、サンジも以前よりも気配を読むのに長けているようだ。
「でかいマグロもハマチも仕入れたし、珍しい海獣の類も結構手に入ったし、しばらく食いモンには困んねぇ。何をこんな海中に来てまで獲物探してんだ、テメェは」
「別にいいだろうが」
「そりゃ、次の島に着くまでに食糧が心許なくなりゃ、釣りでも狩りでもしてもらうけどよ?」
「だからそれじゃ意味ねぇ」
「…意味。イミ、なァ……」
 今だとなんか意味があるわけか? この時点でおれにはさっぱりイミフメイだけど。
 言って、サンジは煙を空へ――といっても海中だからコーティングの中だが――吹き上げた。
 今のところ海底への航海は順調だ。サニー号は海中を滑るように下へ下へと潜っていく。コーティング越しに見る海水は時折色合いを変え、視界に入る魚群や大型の生き物もその都度種類が変わり、相変わらず船首に張り付いた船長を囲んで男共は馬鹿騒ぎ。女たち二人もこの光景には目を輝かせていて、先ほどコックが給仕した紅茶を片手に海中を覗き込んでは何か言って笑っている。
 まるで二年の空白などなかったかのような。
 昨日までも今と同じように、こうして全員揃っていたかのような感覚さえ覚えるほど。
 ―――とはいえ、隣に立つ男も自分も、二年前とは違っている。確実に以前とは質の違う気配を身につけているのだが。
 確かに意味不明だ、とゾロは心中で頷いた。海岸で済し崩しに再会して、いつも通りに戦闘をして、すでに日常と呼べる時間が始まってしまった。感動の再会タイムはお流れで、これからゾロが大物を釣り上げたとしても、「手土産」として扱われるタイミングはとっくに過ぎ去っている。すでにそれは、通常の「食糧補充」でしかないのだ。
「あァ…確かにな」
「何なのよお前、感じ悪ィなぁ」
 一度吸い込んだだけの煙草を、サンジは手に持った灰皿に押し付けて消した。コーティング船の空気は有限だから、おれはこれからしばらく禁煙だ。いらいらすっから、あんま喧嘩売ってくんなよ―――そんなふうに偉そうに釘を差す。
「いつまで不機嫌なツラ晒してんだ、アホが。そうでなくても顔の凶悪度上がってるくせして―――」
「ほっとけ」
 憎まれ口も二年ぶりだ。顔には出さないが、やっぱり悪くねェ、と思う。予定とはだいぶ違うが、問題ない。
 コックは相変わらずアホっぽくピヨピヨしていて、しかしより強くはなったようで、たぶんメシも変わらず旨い。手土産で喜ばせることはできなかったが、何の問題もない。
 ゾロの気分が緩んだのが伝わったか、サンジもふん、と鼻を鳴らして黙り込んだ。
 二年間、どうしてた、とか。
 気軽に報告し合えるような間柄では、ない。前方甲板では船長と狙撃手と船医が早くもこの二年に起こったことの報告大会を――何割かは嘘混じりで――始めているようだが、自分も横のコックも、訊かれた以上のことをお互いに語るようなことはないだろうと思えた。
 知りたくないというわけではないが、今ここにこうしているということ以上に、必要なことなどないからだ。
 不意に、あーーー、とサンジが息を吐いた。何かを言いたいように、あるいは言いづらいように、口を開いたり噤んだりしている。それに合わせて両手が意味もなく動いているのがおもちゃっぽくておかしい。何だよ、と促すと、「なんつーか」と口元を緩めて俯いた。


「お前」
「無事」
「おれ」
「嬉しい」

 …分かるか?
 開いた片手の指を折りながら小声で一語一語発音してから、やっと目を上げたサンジを、ゾロは呆気に取られて見返す。
「…だからなんで片言だよ」
 つーか何なんだテメェ、いったいこの二年で何がありやがった?! 二年間、どこで何の修行をしてきやがったんだ、デレか、デレの修行なのか?!
 あまりの衝撃にそれ以上の言葉を継げなくなったゾロに、別に、と答えてコックが背を向ける。耳たぶが赤く染まっているのはあまりにもお約束で、お約束だけに破壊力も半端ではなかった。クリティカルヒットを喰らって瀕死の気分を味わいながら、ゾロはとっさにやはり真っ赤に染まった首筋を片手で掴み寄せた。



「よし
今夜
お前
覚悟しろ」



 二年ぶりの航海は、なべてつつがなくはじまったのだった。


Von Vorage!!





JIKO; } ?> ( 2012年1月インテのペーパーに書いた超短いSS )

よいざましなペーパー

2012.1.8


 ロロノア・ゾロに酔い醒ましは必要ない。
 なんとなればいくら飲んでも酔わないからである。だから酔い醒ましを口実に広間の隅のテラスへ一人足を運んだのは、盛り上がる一方の宴会の騒々しさから少しばかり離れて静かに飲みたい気分になったからだった。
 楽しげな宴は続いている。竜宮城の酒蔵から運び出されたとっておきだという酒はどれも長く熟成された深い味わいで、この上なく気分がいい。
 そういえばうちのヨメが、海底で熟成させるワインがどうこう言ってたことがあったっけ。地上にあるものの数倍の早さで熟成が進むとかなんとか。
 ふと思い出して、ゾロは眼下の広間をざっと見渡した。相当広い宴の間は文字通りにタイやヒラメの舞い踊り、そこらじゅうに光る金銀サンゴの装飾も眩しく、目立つはずの金ピカ頭もすぐには見つからない。
 だがまあ、この下のどこかにはいるだろう。さすがにいきなり厨房に籠ったりはしているまい。

 うちのヨメは、誰にでもメシを食わせたがるのが珠にキズだな。

 常々ゾロはそんなふうに思っている。本人の意思なのでどうしようもないが、周りを巻き込んだ大きな宴会のたびに大量の料理をほとんど一人で賄い、誰にでも振る舞ってしまうのは感心しない。
 あれは自分の嫁なのだから、本来、自分のためにだけ料理をするべきで、その飯は自分にだけ食わせるべきなのだ。
 だから今日、若い人魚たちに囲まれてあれもこれもと差し出されるままに飲んだり食べたり目をハートにしたりしているアホを眺めて、ゾロは実は大変満足していた。大きな事件のあとの宴会でただもてなされるアレを見るのは、アラバスタ以来ではないだろうか。ずいぶん昔のことのように思える。
 いつもあんなふうにしていればいいのだ。誰にも彼にも料理を作って食わせる必要など、本当はどこにもない。

 アレの料理を食う権利は本来なら、自分だけにあるのだ。
 なぜならアレは、自分のヨメなのだから。

 まあ、百歩譲って一味の仲間たちが毎日食うのは良しとしよう。船のクルーはゾロにとっても家族のようなもので、ヨメが嫁いだ先でその家族の食事を作るのは、普通のことだから仕方がない。
 だがそれ以外の他人については話が別だ。
 ただでさえ二年ぶりの再会からこっち、いろいろあってまだアレの手料理を口にしていないのである。だというのにこの宴会の料理までアレが作ると言い出したりしたら、ゾロは宴会開始前に軽く一暴れしていたかもしれない。
 二年ぶりにアレが腕を揮うのは、この自分のための料理でなければおかしいのである。

「あれ、ゾロここにいたのかー」
 いくつめかの甕を乾したゾロの背に、聞き慣れた声がかかった。
「おう、チョッパー。どうした」
 二年前よりも背丈も高くなったチョッパーは、その背に何か荷物を積んでいる。
 なぜこんなところに石像が、と思い、すぐにそれが自分の嫁を象った人物像だと気付いたゾロである。
 というか、嫁本人だった。
「はしゃぎすぎて石化しちゃったけど、失血よりはだいぶマシだから良かったよ」
「…アホだな、全く」
 間抜けなポーズで幸せそうな顔をして固まっている嫁を、ゾロは呆れた半眼で見やった。
 だが同時に当然のように周囲の空き瓶を脇に退けて胡坐をかいた膝をぽんと叩いたゾロに、心得たように頷いたチョッパーが背に載せていた石像をひょいっと落とした。
 すぽ、とゾロの膝に納まった嫁は、相変わらず幸せそうな顔のままである。――石のままなのだから当たり前だが。
 いったいどんな状況で石になったものやら、大股開きの姿勢はしかしゾロの膝にジャストフィットしていた。今夜あたりチャンスがあるであろう(なければ作るまでだが)再会二発目―――ちなみに一発目はシャボンディで軽く済ませていたが、時間的制約があったのでゾロとしては不満が残る―――は対面座位から始めてやろうかと思うゾロだった。
「チョッパー、戻るなら戻っていいぞ」
「え、ホントか? ケンカしないか?」
 広間の方にどうやら新たに菓子の山が届いたようで、チョッパーがそわそわしているのに気付いてそう言ってやった。この嫁は確かにビョーキなのだが、具合が悪いわけでも怪我をしているわけでもないのにチョッパーが付いていてやる必要もないだろう。
「石像相手にどうやって喧嘩すんだよ」
 というか、密着お膝抱っこの体勢のゾロを見てする心配ではない。だがチョッパーはうんうん、と頷いて笑った。
「しばらくしたら元に戻ると思うから。起きてからならちょっとくらいはケンカしてもいいぞ」
「…どっちだよ」
「今回はルフィ以外誰も怪我とかしてないからな! だから心配ないんだ!」
 言われてみれば、自分もヨメも大きな騒ぎの後とは思えない無傷っぷりである。
 なるほどいつも満身創痍だった二年前とは違って、今ならチョッパーの心配にも少し余裕があるということか。
「それにちょっとくらいの怪我ならすぐ治してやれるぞ。おれの治療も前とはだいぶ違うんだ!」
 サンジのそれは治せなそうだけど、と眉をしかめるチョッパーに、ゾロは軽く手を振って応えた。
「こいつが手間ァかけさせて悪ィな。菓子がなくならないうちに戻ったほうがいいぞ」
「あ! たっ大変だ、じゃあゾロ、サンジ頼むな!」
 ぴゅう、と風の音を残して去って行ったトナカイは、どうやら医療技術だけでなく体術も向上していそうだ。満足げにその後ろ姿を見送って、それから膝に抱えた嫁に視線を移す。
 いつの間にか生身に戻った嫁は、やっぱり幸せそうな顔でまだうとうとしている。すぐ目が覚めるってわけじゃないのかな、と覗きこむが、嫁の頭はまだ至福の国にいるようだ。
 実際のところ、嫁はさほどイイ目を見たわけではないのだろう。ほんのちょっと女に懐かれただけでこの有り様なのは目に見えている。同じエロでもブルックなどはちゃっかりと人魚たちに囲まれて楽しそうにやっていて、もしかするとふざけて乳くらい揉んでいるかもしれない――人魚はパンツを穿かないので――というのに、この哀れなほどの落差。

 しかしこのアホは自分のヨメなので、何の問題もないが。

「おい」

 嫁を呼ぶのに相応しい――少なくともゾロの感覚では――呼びかけで、嫁を起こすことにした。絶品の美味い酒を池の如くに注がれても、どこか物足りない気分が残っていた理由は、自分でもよく分かっているのだ。

「起きろよ。ツマミが足りねェ」
「ん……?」

 むずむずと眉間に皺を寄せて夢の国から戻ってこようとする嫁を、にやにやと眺めるゾロだった。
 正確には足りないのはツマミではなく、美味いツマミを作るヨメ、なのだが。ゾロにとっては同じことなのである。


END





JIKO; } ?> ( 2012年4月大阪大宴海のペーパーに書いたSS。
女体サンジ注意、だけど女体である必然性は皆無 )

ZxS♀なペーパー
2012.4.29


[ ミニクイアノコ ]




「おまえって、ホンット変な顔だよな」
 いつもの時間、いつもの場所で、コックがいつものように呟く。
 時間は朝、というか午前。朝食はとっくに終わっているが昼食の支度にはまだ早い。うっかり起き損ねて朝飯を食いはぐった剣士を蹴り飛ばしに来るのがコックの日課だ。
 とはいえ親切に朝飯を食わせてくれるわけではない。叩き起こされたゾロはそのまま昼食の時間まで腹の虫を大鳴きさせているのが常だった。
 場所は後甲板。メリー時代と同じく蜜柑の木陰が定位置で、早朝の鍛錬後の二度寝にこれ以上の快適な場所はない。
 そしてコックの呟きは、もはや口癖のような毎日の嘆きだった。
「眉毛は細すぎるし」
(―――てめぇは巻いてるな)
「目も細すぎるし」
(―――てめぇは垂れすぎだな)
「なのに三白眼だし。」
(―――てめぇも睨み効かすと垂れ目のくせに三白眼だよな)
「口はたらこみてぇだし」
(―――ウソほどじゃねぇがな)
「鼻筋通りすぎだし」
(―――それもロビンにゃ負けるな)
「あーぁ…―――ほんと変なカオ…」
 ぐす、となぜか洟をすする音までする。
 これも毎日のように繰り返される習慣みたいなもので、ゾロは今さら動じたりはしない。だがそろそろ止めてやった方がよさそうだ。
「オイ、分かったからいい加減にしろ」
 ゾロの正面にしゃがみこんだサンジが、両手でぺたぺたとゾロの顔に触りながら半ベソをかいている。なにこのでかい鼻の穴、とか言いながら。
「おれは鏡じゃねぇんだぞ、アホ。いちいち泣くな」
「だってー…―――」
 ぐし。唇をかみしめた顔は、この可愛い女でもまァみっともない部類に入るかもな、とゾロは内心で笑った。



 麦わら一味の女料理人は、それはそれは凄腕だ。
 料理の腕は言うまでもなく、戦闘力でも船長に次ぐ位置を常に剣士と競うほど。頭もそれなりに切れ気転も利く。
 ただし、見た目がどうしようもなく冴えない。
 ―――と、サンジ本人は思っている、らしい。
 思い込んでいる、というべきだろう。理由を知る者はサニー号にはいないが、とにかくサンジは自分の容姿―――特に顔の造作に、強固なコンプレックスを抱いている。
「今日も泣いてたわね」
「だなぁ」
 ナミとウソップは前甲板でのんびりと風を受けている。風は順風、空は晴朗。爽やかな昼前のひと時だが、若干、後甲板の空気が気になる。
「どーにかならないのかしら、アレ」
「どーにかしようと思ってどーにかなるもんなら、とっくにどうにかなってるような気もすんなぁ」
「それもそうね…」
 サンジのコンプレックスは相当昔からのものらしく、ナミもウソップもメリー号に彼女が乗ってきた当初からそれをどうにか解いてやろうとあれこれ気を揉んだのである。自分が絶望的な不細工だなんて思いこみがどこから生まれたのだか、探りを入れたこともあった。
 だが結果としては、サンジの頑固さにナミもウソップも匙を投げた格好だ。強固な思い込みの根っこは掴めないまま、現在もサンジは自分の容姿を日々嘆いている。
 他人に対する態度にそれが表れることはほとんどないので、もう放っておいてもいいかと最近は思い始めていた。サンジは人前では自分を卑下したりしないし、私なんかブスだから、みたいな不快なセリフを吐いたことだって一度もない。ただ一人のときに鏡を覗き込んで、深い深い溜息を吐くか、ほろりと涙をこぼすか、そんな感じなので。
「あいつ、美人なのになあ」
「ね。あんなに可愛いのにねー」
 何百回口にしたか分からない言葉を、今日も言いあう。
 初めのうちは本人にも何度も何度も何度も何度も言ってやったのだが、言えば言うほど本気にしてくれないことが分かったのでいつの間にか言わなくなった。慰めてくれてありがとう、くらいにしか思ってくれないのだ。言うだけ頑なにさせてしまうだけなのでないかと、近頃では逆に口に出さないように気をつけている。
 だがサンジは、実際にはナミやロビンと並べても遜色ないくらいには綺麗な容姿をしているのである。それぞれ系統の違う美人だが、麦わらの三人の女はいずれも甲乙つけ難い、というのがこれまで麦わらに関わってきた人々の共通認識のはずだ。
 なのにサンジは、毎日鏡を覗きこんではしょんぼりと肩を落とす。
 審美眼が根本からおかしいのかと疑ったこともあるが、自分以外の美女を褒めたたえる時のサンジの言葉はいつも的確だ。綺麗なものに対する感覚は常人よりも鋭いようにさえ思えるのに、自分の容姿に対してだけそれが狂うというのは、いったいどんな作用によるものなのだろうか。

 その疑問は、サンジに恋人ができてからはさらに深まることになったのである。



「なにこの、ぺったんこの耳」
 きゅ、とゾロの両耳を両手の指でつまんで、サンジがぷく、と頬を膨らませた。
 毎日毎日、サンジはゾロの顔や容姿に何かとケチをつける。
 二人きりのときだけだし、恋仲になる前には一切なかったことなので、ゾロにはむしろちょっと面白く思える。ケチをつけているというよりは、ゾロの顔のパーツをひとつひとつ確認しているような口調だ。
 いちいち指でなぞっていくのも面白い。だがあまり放っておいて続けさせていると、いずれぐしぐしと涙声になってくるので適当なところで中断させてやらなければ。
 寝ぼけつつぼんやりとそう考えていると、指ではないものが顔に触るのを感じた。
 目蓋を細くて柔らかい何かがすいっとなぞっていく。ああン?と思って目を開くと、「あ!」とサンジが叫んだ。
「こらっ、いきなり目ェ開くなよ!」
「―――何やってる」
 サンジの右手には何やら細い筆のようなもの。左手には絵具のパレットみたいなカラフルな板を持って、ゾロの膝に跨っている。
「…おい」
「だって、ゾロ、目つき悪すぎるから! もちっとぱっちりしてればもー少しマシかなって!」
「…こら」
「眉毛も細すぎっから! もっと太くてどっしりしてた方が凛々しいぞ!」
 人の顔にぐりぐりと何を描いてやがる、ゴルゴ眉にでもするつもりか。
「おれの顔は黒板じゃねェぞ」
「だって…―――!」
 サンジの両手の妙な道具をささっと取り上げて、手摺りの向こうに放り投げてやった。サニー号は高さがあるので小さな水音は聞こえないが、おそらくぽちゃんと音を立てて沈んだだろう。
 サンジはまったく化粧をしないし、ナミやロビンが自分のものをこんな遊びに貸すわけがない。棄てても構わないだろう、とこんな時には頭の回るゾロである。
「あー! せっかく買ってきたのにー!」
「…わざわざ買ったのかよ。てめぇ使わねェくせに」
「ん、前の島、でっかい百ベリーショップあって」
 百ベリーで何でも売ってんだよ、マジで。あれなんかシャドウ24色にブラシも付いて百ベリーだったんだぜ、ナミさんとロビンちゃんにはいらないって言われちゃったけど。
 言いながら濡れたタオルでゾロの顔を拭いている。きっちりタオルを準備しているあたり、怒られることは予想していたらしい。当たり前といえば当たり前だが、一体何がしたいんだか。

 以前は洗面所や風呂場で鏡を見ては一人ぐすぐす泣いていたサンジは、ゾロと恋仲になってからはその対象を半分、ゾロの顔に移した。
 鏡を覗くみたいにゾロの顔を眺め、ひとつひとつにケチをつけていく。
 ゾロはそれを、咎める気もなければ、やめさせようとも思っていない。

「取れたか?」
「ん、…―――やっぱり変な顔」
「そうか」
 いーからお前、もーちっとこっち来い。
 すでに自分の膝に座り込んでいるサンジの、腰に手を回しながら言う。
 鼻と鼻がぶつかりそうな距離でじっと見つめあうと、ちょっと寄り目になったサンジがぷっと吹き出した。
「面白い顔ー」
「お前もな」
 ふふん、とゾロも軽く笑う。
 顔なんか美しかろうが醜かろうがどうでもいい。見つめ合って、笑って、キスをして。それでずっと一緒にいられれば、何の不足があるだろう。



「あんたと付き合ってても、サンジくんのアレ、全然治んないわねー」
「あ?」
「あんたちゃんとサンジくんに、きれいとか可愛いとか言ってあげてるんでしょうね?」
「なんだそりゃ。言うわけねェだろ」
 なんですって! と目を吊り上げるナミを、ゾロは不思議そうに見返した。
「言ったところで信じやしねぇだろ。だいたいお前、おれがそんなこと言うと思ってたのか」
「…想像したら鳥肌立ったわ…」
 午後のおやつ時にふさわしくない寒気に、ナミはぞくっと肩を震わせる。
「おれとあいつは世界一の不細工カップルだと思ってるらしいからな、あいつ。んなこと言っても白々しいって一蹴すんのがオチだろ」
「何それー…」

「それくらいのほうがおれとしては好都合だな。他の男のつけいる隙もねェだろ」

 あんたにしては結構コスいこと考えてんのね、とナミは思ったが、口には出さずにアイスティーで流し込んだ。
 この万事に自信満々の男がそんなセコイことを考えてしまうのも、ある意味、愛のせいなのだろう。
 サンジにはちょっと、気の毒だけれども。


END





JIKO; } ?> ( 2012年6月大宴海のペーパーに書いたSS )

学生パラレルなSSペーパー
2012.6.24




『件名:お粥の作り方
 本文:っていうか、材料教えて』

 ナミのメールはいつでも簡潔だ。
 無駄な前置きも挨拶も一切ない。絵文字率は0%。一文字単位で料金に影響した時代の名残なのか、それともそもそも定額制にしていないのかは周囲の知るところではない――「定額制で利益が出せるのはその定額以下しか使ってないお客からも一定額を徴収できるからなのよ」と経済学の講義の後で話していたのを聞いたような聞かないような――が、おそらくそれがなかったとしても彼女がだらだらと長い文章を送ってくることはないだろう。
 なぜなら、彼女のモットーの一つは『時は金なり』だから。他愛もない挨拶文や絵文字を選んだり打ち込んだりするのに貴重な時間を費やすなど、ナミには思いもつかないに違いない。
 常に要件だけが修辞なしに示されたメールは、しかしサンジを(脳内で)空も飛べるほど幸せにした。

(―――やっぱりナミさんは最高の女神だぜ…!)

 夏掛け布団に頭まで潜って、ぐふぐふと笑う。頭の中身は春のお花畑に集う蝶々なみにふわふわ飛び回っているが、現実の身体は寝返りひとつ打つのも億劫なのがもどかしい。誰もいない自分の部屋でも、ナミに捧げるピルエットのひとつもくるりと披露したいところなのだが。
 しかし昨夜からどうやら下がっていない熱に体力を奪われきった今のサンジには、超高速でメールの返事を打つことくらいしかできない。

『件名:おかゆを作りに来てくれるなんて
 本文:ナミさんはなんて優しくて素晴らしくて心の美しい人なんだ!
お粥には特別な材料なんて必要なくて、お米と塩と、出汁からとるなら昆布と鰹節、面倒なら粉末のいりこだしとかでもいいけど、あとは卵でも入れれば最高だよー!
ところでなんでおれが寝込んでるって知ってるの?』

 ぽちぽちぽちと一気に打って、送信。
 携帯を枕元に置いて、ほへー、と熱っぽい息を吐き出した。体調を崩すことなんてめったにない――というかものごころついてからは一度もない――サンジにとって、慣れない体のだるさはかなりこたえる。体温計は持っていないので測っていないのだが、この熱はいったいどのくらい高いのだろうか。今まで想像したこともないくらいに辛いのだが。
 体温計がないついでに、もちろん薬などという大層なものもない。一人暮らしの男子学生の部屋に、体温計や常備薬などというものが揃っている割合は、どの程度だろうか? 台所には湿布と包帯ならそれなりにストックしてあるが、風邪薬なんてものは今まで必要性を考えたこともなかった。冷湿布を額に貼るのはさすがにまずかろうか。

 ―――でもそのおかげでナミさんがおかゆを作りに来てくれるんなら、万々歳だろ。にしてもすげぇなナミさん、おれ昨夜から寝込んでるとか誰にも知らせてないのに、なんで知ってんの。もしかしてエスパー? やっぱ美しいレディってのは特殊能力も兼ね備えてるもんなのか、それともこれは愛ゆえのテレパシー? 二人をつなぐ運命の赤い糸のなせる業?

 そんなことをぼんやり考えていると、ぴろりろりろん、と携帯が再度のメール着信を知らせた。

『件名:私は行かないけど
 本文:大人しく寝てなさい』

(―――そんなクールなナミさんも素敵だー!)
 どうやらナミがここに来てくれるわけではないらしい。
 お粥の材料を訊いてきたのはもしやナミの家族の誰かが寝込んででもいるのだろうか、大事ないといいのだが。
 てっきり自分のために作ってくれるのかと思い込んで浮かれた返事を返してしまったのは恥ずかしいが、熱で朦朧としているせいだということにして許してもらおう。
 大人しく寝てなさい、と言われて、これにまた返事を返してしまっては怒られてしまう。携帯を閉じると、サンジはもぞもぞと掛布団を掛け直した。
 しかし普段あまり昼寝などする習慣のないサンジには、体調が悪いとはいえ昨夜の早い時間から十六時間以上も横になり続けているのはそれ自体が苦痛だ。
 なのに、起きたくても起き上がれない。薬はないにしてもせめて何か腹に入れて体力を回復しなければ、とは思うのだが、布団から出ることすらできないのでは到底無理な話だった。
 起き上がれるくらいに熱が下がるまでは、寝ているしかない。だが眠くはならない。
 だるくて苦しいのに眠くならない、というのはなかなかの苦行である。一眠りして目を覚ませば今よりは楽になっていそうな気がするのに、意識が一向に眠りに落ちてくれない。

 ―――暇さえあれば寝てる誰かみたいなヤツなら、ぐーぐー寝まくってすっきり治せちまうんだろうけどなぁ。

 ふと思い出したのはしばらく前に知り合った同い年の男のことだった。
 知り合った、というか、懐かれた、というほうが近いような気がするのは、奴が妙に動物っぽいというか、獣めいた男だからだ。 
 サンジの住むアパートが大学から目と鼻の先にあるのをいいことに、週に数度も押しかけてくる。部活の朝練がある日の前夜はほとんど必ず来て勝手に泊っていくが、毛布の一枚も与えておけば文句も言わずに床で朝までぐっすりと寝ているからサンジに手間をかけさせることもなかった。
 部活は剣道部らしいのだが、サンジの部屋に陣取るようになってからは朝練への遅刻がなくなったと、本人ではなく部員たちからの感謝をサンジは受けている。三年生になってまさかとは思うのだが、自宅から大学まで、まっすぐ辿り着けないことがよくあるのだという。共通の友人であるナミの話では、生まれ育った自宅の最寄駅ですら、ホームに来る電車の行先や方向を把握できていないらしいというのだから、筋金入りだ。
 学部は同じだが取っている講義がほとんど重ならないその男と知り合うことになったのはたまたまだが、男の目にはサンジの住処は休憩所として魅力的に映ったのだろう。
 なにしろはじめのうちは、弁当持参で来ていたほどだった。
 いうまでもなく、その辺のコンビニかよくて弁当チェーン店で買ってきた弁当である。
 大学生であると同時に調理師志望でもあるサンジにとって、自室のテーブルで、自分の目の前で出来合いの弁当を食われるというのは、ほとんど拷問に近い体験だった。
 いや、コンビニ弁当はともかく弁当屋の弁当なら、目くじらを立てるほど悪いものではないことくらい、サンジにだって分かっている。最近はチェーン店であってもそれなりにまともな調理場を構えてきちんと作っているところも多く、味も素材もそれなりだったりするものだ。献立をちゃんと選べば、健康を維持するのに十分足るだろう。
 だが、広くはないがキッチン設備の充実を重視して借りた自分の部屋で、いかにも燃費が悪そうなガタイの同年代の男が、白い発泡スチロールの弁当パックをいくつも空にしていくのを見続けるのは、サンジには5日が限度だった。
『お前、次来る時からは食いもん持って来い』
『あ? ちゃんと持ってきてんだろーが』
『違ェよ、弁当じゃなくて食材持って来いって言ってんの』
『はぁ?』
 空の弁当パックを捨てようとしていた男に、サンジはそう命じたのである。
『食いたい飯の、材料を買って来いってことだよ。このへん、弁当屋も多いけど、スーパーもちゃんとあんだぜ』
『…メシの材料なんか、おれに分かるわけねェだろ』
『別に全部わかんなくたって、たとえば牛丼が食いたいときは牛肉買ってくる、とかでもいいよ。うちにある食材と合わせて作るから』
 それこそ想像もつかない提案だったのだろう、男は目を丸くしていた。
 訊けば育った家にも親を含めて料理をする人はおらず、食事とは店で作られたものを買ってくるのが普通だと子供の頃から思っていたという。
 今では大学からこの部屋へ来るたびに近所のスーパーか商店街に寄り、なにかしら食材を買ってくるようになった。食い物ってあんま高くないんだな、などとたまに不思議そうな顔をするが、出来合いや弁当の値段が基準だったなら当然のことだろう。
 カラアゲが食べたい、と言って冷凍の鶏を一羽まるごと買ってきたときにはどうしてやろうかと思ったが、そんな驚きも含めて、自分の部屋に入り浸っている男に食事を作って食わせることをサンジはわりと楽しんでいるのかもしれない。生きたニワトリを連れてこなかっただけましだった、ということにしてもいい。
(―――そういや、アイツには言ってあるんだっけ)
 寝込んでいることなど誰も知らない、というつもりだったが、あの男にだけは今朝言った気がする。
 熱で朦朧とはしていたのだが、明日が朝練のある日である奴は今夜は確実に来るはずで、食事を作ってやれそうにもないし、風邪だとしたらうつしてもまずいので、朝のうちに電話をして、来ないように言ったのだった。

   ぴんほーーーん。
   ドンドン。

 なのに、なぜ玄関のチャイムが鳴るのか。
 ぴんぽん、の後にドアを叩くのはあの男の習慣だ。ほぼ週五で来ているが合鍵を持たせているわけではないので、毎回ああやってチャイムを鳴らしてドアを叩く。
(―――ていうか、なんで来んの)
 メールを送ってもまめにチェックするような奴ではないことはよく知っているので、喉ががらがらなのをおしてわざわざ電話をして念押ししたのである。まさか今朝の電話の内容を、午後になったばかりのこの時間にすでに忘れているなんてことはあるまいが。

  どんどん、どん。ドンドンッ。

 ドアを叩く音はだんだん大きくなる。昼間とはいえ近所迷惑だチクショーめ、毒づきながらサンジはゆっくりと起き上った。途端に圧し掛かってきた鈍い頭痛に呻きつつ、這うようにして玄関に向かう。

「…来んなって言ったろーが」

 ゴゴゴゴゴ、とでも効果音の入りそうな声とともに開いたドアの向こうには、常と変らない様子の男が立っていた。
 片手にはいつものスーパーの袋をぶら下げている。いつものものに比べてやけに大きく、かなり重そうだが。

「おう」
「―――おう、じゃなくてな」
「とりあえず中入れろ、これ結構重い」

 これってなんだ、やっぱ食材か。お前はおれにメシ作らせんのか、今日、この状況で。
 何から言ってやるべきなのか悩んでしまって呆然と立っているサンジを押し込むようにして、男は部屋に入ってくるとそのまま台所に直行した。
 確かに相当重そうなビニール袋を、どっさ、と流し台に置く。その音で、サンジにはその中身の見当がついた。
「…―――おいゾロ」
「米と、塩と、あー、ダシがどうとかはさっぱり分からんかったから、りしりこんぶってのだけ買ったぞ。あ、あと、卵な」
「……」
「これで、粥できんだろ」
 一仕事成し遂げたような顔で、ゾロがサンジを見た。
「…やつれてんなぁ、オイ」
「…分かってんならお前ェ…」
「なんか足りないもんあるか? ナミに材料訊いたんだが、まだなにか足りないなら買ってくるぞ。やっぱりダシとかいうの、要るのか?」
「いや……」
「あと、ナミが薬買ってけって言ったから、これな」
 もう一つ小さな黄色いビニール袋に、小さな紙の箱が入っている。
「空きっ腹に飲むなって店の奴が言ってたからな。とりあえず、早く粥作れ」
「…えええええぇぇぇぇぇ…」

 やっぱりか、やっぱりおれが自分で作るのか。くらりと眩暈を覚えたのは熱が上がったせいか、それとも別の理由か。

「…お前…百歩譲って、おかゆならコンビニだってレトルトの売ってんだろーが…」
「コンビニの食いもんじゃダメだって、お前も言っただろ」
 立っていられなくなってベッドにへたり込んだサンジを見下ろして、ゾロが当然のように言う。

「具合が悪いんなら、力の付く食いもん食わねぇとだろ。お前の作ったメシが一番力が付くんだから、お前が作った粥を食え」
 そうすりゃすぐ治んだろーが。
 お前のメシが一番力が付くってのは、おれがよく知ってるからな。

 言って、流しの下の収納をごそごそ漁りだした。鍋がそこに仕舞ってあることを知っているらしいが、やはり自分で作るつもりではないようだ。
「ええぇぇぇ…なんだその殺し文句……」
 上半身を起こしている気力もなくなって、どっさりと布団に背中から倒れこみつつ、サンジは呟いた。
 いくらなんでも頭が悪すぎる。おれのメシが一番だからおれのメシを食えば治るって? こんな頭の悪い、しかも狙って言ったわけでもない殺し文句で墜ちるなんて、いくらなんでもおれのプライドが許さない。
 なのに。
「あ? 何か言ったか? つーか寝る前に粥作って食えって。んで、薬飲んで、寝るのはそれからにしろ」
「…―――あーーーーー……」

 たぶん、いまさらコンビニのレトルト粥でいいから買ってこいと言っても、ゾロは聞かないだろう。
 というかお前、おれに中華鍋で何を作らせるつもりだ。お粥を作るのにフライ返しは使わない。おれのキッチンを荒らすのはやめろ。

「…分かった。ていうか、おれが指示を出すから、お粥はお前が作ってくれ」
「あぁ? 何言ってんだ、おれがメシなんぞ作れるわけがねぇだろ」
「ちゃんと指示出すって言ってんだろ」
 粥一つ作るだけでも台所はおそらく大変な惨状になると予想はできたが、なんだか妙に覚悟の決まってしまったサンジだった。

 どんな出来になるか想像もつかない粥を食べて、薬を飲んで一眠りして、体調が戻った後でいろいろと考えたり片づけたりすればいい。



「おれのメシが一番お前の力になるんなら、お前の作ったメシもおれの力になるよ。きっと」


END





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